恋する事が罪ならば
 

 



共に過ごす夜に願う事があるなら、


ただ君と一緒に居たいだけ。





恋する事が罪ならば





「アキラ可愛いー!!」
「わぁっ!!」

何時もヘルメットをしているアキラが、今日は私服できている。
シンプルだがそれが非常に似合っていて、とても可愛らしい。
は思わずアキラに飛び付いてしまった。

「こ、!皆見てる・・・!」

アキラは恥ずかしそうにを押さえる。
そう、今日はクリスマス。
ロイの家で行われる盛大なパーティーに呼ばれたのだ。

「ごめん、アキラが凄く可愛かったから・・・!」

口元を押さえ、頬を赤らめながらは言う。
その仕草が可愛らしくて、アキラも思わず頬を染めた。
周りが不思議そうに様子を見ている。

「お前も良く似合ってんじゃねーか。」

ひょいっ、と顔を覗かせてきたのはエッジ。
本当に皆揃って招待されているのだな、とは驚く。

「アキラには適わないよ、アキラ可愛いよね!」

エッジの言葉をそう返し、同意を求める。
女性を褒めると言うのはエッジにはなれていない事だ。
返答に困り、適当に話題を変えようと模索する。

「そうだ、あん時の礼も兼ねてプレゼントがあんだけど。」
「え、そんなの良いのに。」

ごそごそとポケットをまさぐり、エッジは何かを取り出した。
取り出されたそれは、小さなシルバーのトップがついたチョーカー。
シルバーのトップは細かく芸の施された雪の結晶の形。

「手作りなんだけど、いらねェか?」
「いる!!凄いいる!!凄い欲しい!!」

はしゃぎながらチョーカーを見るに、エッジは嬉しくなる。
製作者として1番嬉しいのは、貰ってくれる人間が喜ぶ事だ。
ここまで喜ばれると、余計に嬉しさが倍増する。

「つけて良い?」

エッジから受け取ったチョーカーを大事そうに手に持って尋ねる。
寧ろ付けてくれた方が良いと答えられ、はすぐさま首に巻いた。
チョーカーはベルトのように通せるようになっていて、落ちる心配が無い。
一瞬だけ、シルバーのトップが肌に当たって冷たい感触がした。
でもそれもすぐに気にならなくなる。

「お、凄ェ似合うぜ!」
「本当、ぴったりよ。」

サラサラの黒髪にベルトがあっていて、シルバーが良く映えて。
のためだけに作られたと言えるほどに似合っていた。
作ったエッジも、見ていたアキラも驚くほど。

「ありがとう、大事にするね。」

微笑んでチョーカーに指先で触れる。
自然な仕草に、思わずアキラすら胸をはねさせた。
たまにだけ見せるこんな表情が、やけに綺麗で。

、楽しんでるか?」

割りこむように入ってきたのは、ロイ。
髪形を変えて、スーツを着込んだ姿は高校生とは思えない。
はエッジとアキラに、すぐ戻ると告げてロイに駆け寄った。

「凄く楽しんでるよ、招いてくれてありがとう。」
「それは良かった。」

かなりの豪邸に、普通では食べられない豪華な食事。
本当なら、こんな所に来る事など出来ないわけで。
しかみこんなに大勢呼べるロイは、心底凄いと思える。

「・・・は今日も凄く魅力的だね。」
「そっ・・・そういう事をさらっと言うロイって凄いなぁ。」

はぐらかして見るが、ロイは真面目にを見ている。
ロイの手がの肩と頬に向けられ、やがてしっかりと捕まれた。
痛くない程度の強さで、優しく添えるように。
は首を傾げて、ロイのその様子を見ていた。

「額を許してもらえるかい?」

その言葉の意味を理解する事が出来ず。
はただ、ロイの目を見ていた。
だが次瞬間にそこから離れなかった事を後悔する。

「!!!」

ざわり、と会場内が騒がしくなった。
はただ呆然として、立ち尽くしている。
ロイが突然、の額に口付けたのだ。

「な・・・なぁッ!?」

は慌てて額を押さえて後退りする。
だがロイに捕まれたまま動けず、次の反応に困っていた。
しかし次の瞬間に、それから開放される。

「何をしているんだ、君は。」

ばっと肩を捕まれ、後ろに回されるようにして退けられる。
誰かと思えば、それは恭介だった。
目の前ではロイと恭介が睨み合っていて、今にも拳が飛んでいきそうだ。

「恭介、あ、アメリカ人にとっては挨拶だよ!!」
「・・・、それを本気で言っているのだとしたら俺はなんて答えれば良いんだ?」

必死のフォローも、ロイの言葉によって崩される。
遊園地の一言は、本当に本気らしい。
勝手に恋をして良いかと聞かれ、何も答えずにいたが。
まさかこんな形で行動されるとは思わなかった。
あたりが、3人を中心に円を作っている。
こんな状態がは1番苦手だった。

「亜諏羅君・・・止めなくて良かったの?」
「えぇ、僕はさんの恋愛に関しては口を挟みません。」

円から離れた所で響子が尋ねると、太一は料理を頬張りながら答える。
ただ楽しんでいるだけのようにも見えるが、それでも当然だろう。
太一は別に、に対して恋愛感情を持って動いているわけではないのだ。

「・・・なんでこんな事に・・・。」

こう言う光景は漫画で見た事がある気がする。
だがそう言うのは、もっと可愛いヒロインとかがなるべき状況で。
こんな自分がなって良い状態では決して無いのだ。
は頭を抱えて二人の様子を眺める。

「俺はいずれを国に連れて帰る!」
がそんな事を承知したと言うのか?」

目の前では言い争いが続けられている。
止めるための言葉と言えば、どんな物だろう。
遠くで太一が、大きな画用紙のような物に何かを書いて掲げている。
それを見るとそこに書かれていたのは一言。

《「私のために争わないで!」って言うんですよ!!》

言えるか、そんなこと。
心の中で突っ込んで、は拳を握り締める。
そして1つのことを決意して、二人の間に立った。

「二人ともちょっと冷静に・・・なってよ。」

ごん、ごん、と鈍い音が2つした。
それがなんの音であるか、見ている全ての人間が認識する。
の拳が二人の顔面を捕らえ、二人を気絶させたのだ。

「あーもー面倒な事しないでよー!」

そのままは二人の足を掴んで、ずるずると引きずっていく。
が通る道を、周りの人間が開けていくのがわかった。
どうしてこう、自分で墓穴を掘ってしまうのだろう。
寧ろ目覚めた後に二人になんて言おう。

「・・・よいしょっ・・・と。」

美しく証明に彩られた、中庭のクリスマスツリー。
まだそこには殆ど人が居らず、と気絶した二人だけがいることになった。
少しだけ肌寒い、澄んだ空気があたりにちりばめられている。
そのおかげか空がいつもより綺麗に見えた。
星が光り輝いて感動さえ覚える。

「うっ・・・。」
「いっ・・・て・・・。」

ようやく二人も目覚めたらしく、顔を押さえて置きあがった。
引きずって来たために、二人して服装や髪型が乱れている。
それが面白くて、は笑い出した。

「何か責めてやろうと思ってたけど、面白いからやめる。」

恭介もロイも、何が起こったかわからないかのように首を傾げている。
まだ頭がくらくらしているらしく、状況が把握できてい無いようにも見えた。

「・・・・・・。」

最初に状況に順じたのは、恭介だった。
不機嫌そうな顔をして、を見る。
続いてロイが乱れた髪を整えて立ちあがった。

はあれを本気で挨拶だと?」

勝手に恋をしたのは自分。
けれどやはりそれに答えてもらいたい気持ちはある。
始めてあった日に捕まれた心がその思いを拒否できなくて。

「・・・・・・夢を見るんだ。」

ロイは俯きながら、黙り込んでしまう。
髪に隠れて、表情が見えなくなった。


悲しい夢。

君がずっと一人で居る夢。

誰しもが君を忘れてしまって。

君は一人で歩いている。

誰かに話しかけても、誰も覚えていなくて。

一人、ただひとり、歩いている夢。

でも君は涙を流したりなんかしなくて。

泣いているのは、俺の方だった。


「・・・1人に、したくないんだ、君を。」

どう答えるべきか、にはわからない。
こんなことは始めてだった、こんな風に、誰かに恋をされるのは。
自身もそんな恋の経験なんか無いに等しい。

「・・・・・、こっちを見てくれ。」

困っているを後ろから抱き込んだのは、恭介だった。
ロイがそれを跳ね除けるように、恭介の手を叩く。
目の前にはロイが居て、後ろには恭介が居て。
どうにも出来ない状況では目を瞑った。

「嬉しいんだよ、凄く、ね。」

静かな中庭に、流れるように言葉が発された。
二人はじっと耳をこらして、一字一句違える事無いよう聞く。

「でも、私には勿体無いよ、その恋は。」

二人から離れるように、はクリスマスツリーに近づく。
キラキラと眩しいくらいの照明が目に焼き付いてきた。
くるりと、後ろを振りかえる。
動けないで居る二人が、呆然とを見ていた。

「その素敵な思いは、私が貰うべき物じゃないよ。
私がその恋を受け取る事はきっと罪なんだ。」

恋することが罪なら、きっと自分は重罪人。
勿体無さ過ぎる思いなど、受け取れない。
それを、同じ価値で返せるような自信も無い。

「そんな事・・・。」
「そのうち罰が当たっちゃうよ。」

苦笑いして、は空を見上げる。
それと同時にふわりと白い雪がふり出した。
二人は驚いて、空中にを翳した。

「・・・・・・。」

なんて声をかければ良いのだろう。
勿体無くなんかない、と言うべきなのだろうか。
ただそう言うだけではきっとは引き下がらない。

「今日は楽しかったよ、またね。」

はそのまま、岐路につく。
取り残された二人にただ降り注ぐ雪が冷たくて。
涙が流れそうなほど寂しい気持ちを押さえきる事が出来なかった。


この恋は罪なのだろうか。

まるで人ではないものに恋焦がれてしまったような気持ちになる。

認められない恋をしているかのようにも感じられる。

遠くて、手を伸ばしても届く事の無いものに。

けれど、それでも。

一人にはしたくないんだ。

隠してでも。

恋をしていたいんだ――――・・・。




続く。

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